2016-02

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aQuA -アクア- / Chapter 7 - part 1


Chapter 7




 1



アクアは、宿屋の窓から見える街並みや、行き交う人々を懐かしい気持ちで見ていた。
自分の国も大きくはなかったが、城下町はこのハイルランバーの都のように賑わっていた。

「そうですか。ルーンは一人で森に行ってしまったのですか。心配ですね……」
「心配する必要なんてないさ。ほんとに馬鹿だよ。自分だって戦い疲れているはずなのに、休む間もなくさっさと行ってしまうなんて。一体どういう神経してるんだろう」
「ごめんなさい。もとはといえば、私が倒れてしまったから……」
「君が謝る必要なんてないよ。じゅうぶん頑張って戦ってくれたし、あの魔法がなければ、僕たちは死んでいたかもしれない。感謝してるよ」

クリスが優しく微笑む。
アクアは初めて自分の力がみんなの役に立ったということが、とても嬉しかった。
もう守られているばかりの自分ではない、今度は自分が誰かを守るんだ、という気持ちになれた。
あの戦いで、アクアは少し成長できたような気がした。

「それよりこれからどうしようか。とりあえずルーンのことは置いといて、この辺りで何か変わったことはないか、情報を集めるしかなさそうだけど」
「いいんですか?ルーンをこのまま放っておいて。疲れた体で、しかもたった一人で森へ行くなんて。あまりにも危険すぎます」

口では心配して言いながらも、内心もし彼女が死んだら、自分たちを祟って出てきて、最悪一緒に森へ連れていかれてしまうのではないだろうか、とも心配していた。
欲の深い彼女のことだ、そういうことがあってもおかしくない。
しかしそんなことを考えて青ざめているアクアをよそに、クリスは「ルーンはそう簡単には死なないよ」と笑っていた。

「それに、もし仮に死んでしまって化けて出たりでもしたら、ネクロマンサーにでも頼んで払ってもらうさ」

ネクロマンサーというのは、人や魔物の霊、ゴーストたちを、本来いるべき世界へ還すことを仕事にしている霊媒師みたいな人たちである。
アクアも幼い頃、城へやってきたネクロマンサーが、お払いをしているのを見たことがあった。

「でも、ルーンが言っていた洞窟、気にはなるな。初めて出会った時に、ルーンは占い師に『運命の者と森の洞窟へ行け』って言われたと話していたこと、覚えているかい?」クリスがちらりとアクアを見る。

たしかに、ルーンは最初にそんなことを言っていた。
何があるのかは教えてもらわなかったようだが、彼女はすごいお宝が隠されているにちがいないと決め付け、信じ込んでいた。
もし仮にそうだとしても、迷いの森といわれている所に、どうやって宝を隠したのだろうか。
そしてそんな場所にある宝は、一体どんなものなのだろうか。
宝は欲しいと思わないが、少し見てみたい気もする。

「迷いの森がどこにあるのか、そしてその森に洞窟があるのか、とりあえずこの宿屋の主人に聞いてみよう」
「そうですね、行きましょう」

二人はカウンターまで行くと、主人に迷いの森の洞窟について尋ねてみた。

「さっきあんたらの連れの姉ちゃんが同じことを聞いてきたんだが、わしは知らんのだよ。迷いの森はここから西に行ったところにあるんだが、あそこは人を寄せつけない何かがあってなあ。森に入ったらなかなか出られないみたいだし、行方不明や死者も数知れず。いくらすごいお宝が隠されているからって、そんな危険なところへ行こうとは思わないほうが身のためだぞ」

だんだん顔をしかめだした主人は、「ああ、恐ろしい」と身震いしながら奥の部屋に引っ込んでしまった。
宿屋の主人が知らないとなれば、他をあたってみても同じだろう。

「うーん、とにかく森に行ってみるしかないのか……」とクリスが振り返ろうとした時だった。
突然後ろから、「その洞窟なら、どこにあるか知ってるぜ」と男の声がした。

「きゃっ」思わずアクアが小さな叫び声をあげる。

「あはは、わりぃわりぃ。そんな驚かせるつもりはなかったんだけどな」

どこか子どもっぽい雰囲気を漂わせたその青年は、年齢は二十代前半といったところだろうか。
身長がアクアより頭二つ分くらい大きい。

「洞窟がどこにあるか知ってるって本当なのか?」

クリスが問いかけると、男は「ああ」と頷き、腰に巻いてある小袋から地図を取り出した。
この周辺地図のようで、都の西にあるという迷いの森もきちんと描かれている。
さらに森の中の目印など細かく書かれており、赤い文字で大岩と書かれたすぐ側に、『謎の洞窟』の添え書きとバツ印が付いていた。

「ずいぶん細かく書き込んであるんだな。これは自分で書いたのかい?」

「まさか」男は首を横に振った。「手に入れたんだ、酒場で飲んでいた男からな」

酒場でお酒を飲んでいる冒険者がいたらしい。
彼は世界中をかけ巡っていて、迷いの森の洞窟にあるという宝の噂を聞きつけてこの地へやってきた。
ただ、彼の興味は宝ではなく、森にあった。
一度入れば脱出は困難だという迷いの森を攻略した、世界で初めての人間になりたい。
そんな思いで森に入った彼は、見事森を攻略してしまったらしい。
どうやって抜けたのかは秘密だったらしいが、その知識は相当なものだったのだろう。

森のどこかにあるという洞窟も見つけたが、どうやら強い結界が張られており、さすがの男もそこへ入ることは敵わなかったそうだが、森を攻略したので満足し、地図に書き込んで酒場で一人祝杯を挙げているところをこの青年が通りかかった。
杯を交わしているうちに打ち解け、その森の話を聞いた青年は、自分もその場所に行ってみたいと申し出た。
すると男は、それならこの地図をくれてやる、と、あっさり地図を差し出したらしい。

「その男も興味深かったけど、この謎の洞窟もすごく興味深いから、ちょうど行こうと思ってたところだ。案内してやるから、俺もお前らと同行してもいいだろ?」

彼の言い方が少し癪にさわったが、一人より二人、二人より三人のほうが安全。
ましてや無事に出られるかどうかも分からない場所を、案内できる人間がいるのは心強い、ということで、彼もアクアたちに同行することとなった。

「じゃ、決まりだな。俺はレオン・ハーベスト。レオンでいい」そう言ってにっと笑う人懐っこい表情は、まるで犬のようだ。

レオンの装備はプレートアーマーと剣だけという軽装だった。
彼が言うには、遠距離攻撃のできる、剣に魔法をかけた魔法剣というものが使えるため、そんなに重装備にする必要がない、とのこと。

「魔法剣は、俺の一族だけに伝わってきた剣技だ。熟練度が上がれば、強力な魔法をかけて大技を繰り出すことだってできる」

「すごいんですね!」アクアは目を輝かせた。

「だが、強力すぎるからあんな……あ、いや、何でもない。それより、その洞窟に行くならさっさと行こうぜ」

レオンはそう言うと、先に宿屋から出て行ってしまった。
取り残された二人は、呆然と立ち尽くしていた。

先程のレオンは、ぐっと何かを堪えていた。
絶望のような、悲しみのような、そんな表情をしていた。



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aQuA -アクア- / Chapter 7 - part 2


Chapter 7




 2



一体この森はどうなっているのだろうか。
さっきからずっと同じところを繰り返し歩いているようだ。
森の外から見た様子では、そこまで広い森には見えなったのだが。

「まただ!」

クリスが木の根元にある、人一人がやっと抱えられそうなほどの大きさの石を指差して叫んだ。
アクアとレオンがクリスの指差す方を見ると、たしかにさっき見かけた石と同じもののようだった。
三人同時にため息をつく。

「もうこれで、この石を見るのは五回目ですね……」

最初、三人ともこのように似たような石がいろんな所に転がっているのだと思っていた。
だが二回目に見た時、念のため石のすぐ横の木の幹に印をつけておいたのだ。
しかしそれからも進んでみたが、またこの場所にたどり着いてしまっていた。
間違いなく三人は、同じ場所をループしていたのだ。

「本当にここは迷いの森なんだな……この地図のとおりに進んでると思ったんだけどな……」レオンが首を傾げながら後ろ頭をかく。

「これでは洞窟へ行くことは困難ですね。ルーンもこの森にいるはずなのに、まるで出会う様子がないし……」
「ルーン!?」

突然レオンが上ずった声で叫び、飛び上がった。
それにつられてアクアも飛び上がる。

「おい、もしかして、そいつはルーン・トラストって名前じゃないか!?」
「そ、そうですけど、それが何か?」

レオンはその言葉に衝撃を受けたのか、大袈裟に倒れ込んでしまった。

「……そいつは……俺の元カノなんだ」
「ええぇええええぇぇええぇ!?元カノぉお!?」
「ルーンとお付き合いを!?」
「ああ……」

約一年前、レオンはとある酒場でルーンと出会った。
一人でお酒を飲んでいるところにルーンが声をかけてきたらしい。
彼女を見たとたん、レオンは心を奪われてしまった。
いわゆる一目惚れというものだ。

彼はルーンに断られるのを覚悟でパーティを組まないかと提案をしてみた。
もちろん、それは彼女に近づくための口実だった。
彼女は少し考えていたが、意外とすんなり了承したそうだ。

「最初はそりゃ、嬉しくて天にも昇る気分だったさ。ダメ元で持ちかけてみた話が、いとも簡単にオーケーしてくれたんだからな。それから俺はすぐに告白した。それもすぐにオーケーしてくれた。だが、それがすべての始まりだったんだ……」

その後のレオンの不幸は、目を覆いたくなるような話ばかりだった。
ことあるごとにルーンにこき使われ、おいしいところは毎回と言っていいほど取られ、挙句の果てには持っていたお金と、手に入れた宝をすべて持っていかれてしまった。
ルーンがレオンと付き合っていたのは、言うことを聞いてくれる下僕と金目のものだけが目的だった。
もちろん恋愛感情などというものははなから何もなかったのだ。

「あんなやつにまた会うのはごめんだ!俺は帰るぞ!」
「おいおい、帰るっていっても、ここからどうやって出るんだよ」
「俺は自分で道を見つける!とにかくあいつに会いたくないんだ!」

クリスが必死に止めるのもむなしく、レオンは走って逃げ出してしまった。

「……行ってしまいましたね」
「まあ、どこに行っても、どうせまたここに戻ってくるさ」

案の定、レオンは戻ってきてしまった。
森から出られないことと、ルーンに会わなければいけない苦痛が重なり、顔がひどく青ざめていた。

「もう嫌だ……俺はここで死ぬ……」
「何を大袈裟に嘆いているんですか。まだ死ぬと決まったわけじゃ……」
「そうそう、あんたたちは死ぬわけじゃないわ」

突然どこから声がしたのかと三人は辺りを見回すと、近くの木の低い枝に立っているルーンの姿があった。
三人が驚きで硬直しているのを見てくすっと笑うと、ルーンは軽やかに身を翻して地面に降りた。

「ル、ルーン!無事だったのか!?てっきり僕たちと同じように迷っているのかと……」
「失礼ね!あんたたちとこのあたしを一緒にしないでちょうだい。もう少し先で洞窟を見つけたんだけど、人の気配がしたから、誰かと思って戻ってきてみれば、あんたたちだったのね」

どうやってルーンは洞窟までたどり着いたのかというと、なんと勘で突き進んだだけだそうだ。
一応目印はつけて進んでいたが、こうも同じところを回ってしまうとらちがあかない。
慎重に進むのはやめ、何も考えずに歩いていたら、人工的に手を加えたように見える大きな岩があって、そのすぐ側に洞窟を見つけてしまった。
どうやらルーンは、とんでもない強運に恵まれているようだ。

「例の洞窟を見つけたんですね?」
「ええ、見つけましたとも。でも、変な門番みたいなのがいて、『二つの珠(じゅ)が揃いし時、扉は開かれよう』とかわけの分からないこと言われて追い返されちゃったのよ」
「二つの珠……?もしかして、これのことかしら……」

アクアは国に伝わる宝玉の入ったポーチに手をあてた。
もうひとつの珠は、おそらくルーンが持っている宝玉のことだろう。

「たぶんね。それにしても久しぶりね、レオン。あれからまた一段とかっこよくなっちゃって」
「そ、そんなにおだてられても、俺はもう騙されねえぞ!よくもあの時は騙してくれたな!お前のせいで、あれから俺はどれだけ苦労したことか!」

レオンは吼えるように噛み付いたが、ルーンは手を口にやり大袈裟に高笑いした。

「あーら、何のことだかさっぱり。それより、あたしがみなさんを洞窟へ案内して差し上げてもよろしくてよ?」

「本当か!?そんなこと言って、また人を騙すつもりじゃないだろうな!?」レオンが警戒するように後ずさりする。

「そんなことしないわよ。なんならあんただけ置いていってもいいのよ。自力でこの森から出られるのならね」
「うう、それだけは勘弁……」
「じゃあ、みんなでその洞窟へ行こうか」
「いいわよ。でも、そのかわり……」

ルーンはもったいぶるように言う。
何を要求されるのかと冷や冷やしながら、三人がごくりと唾を飲んだ。

「洞窟のお宝は、全部あたしのものよ!分かった!?」

この一言に全員が呆れ返ったのは、言うまでもない。






to be continued...



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aQuA -アクア- / Chapter 8


Chapter 8




そこはとてもひんやりとしており、狭く、薄暗く、でも空気は外と変わらず、なんとも不思議な洞窟だった。

「あー、まだケツが痛ぇ……」レオンがさっきからずっと、お尻をさすっている。

クリスも同じく痛みを感じるようで、何度も立ち止まって深呼吸をしては、「よしっ」と気合を入れていた。
アクアは何とか痛覚を遮断しようと考えないようにしていたが、どうにも歩き方がぎこちなくなってしまっている。

あれからルーンの後をついて行った三人は、無事に目的の洞窟にたどり着いた。
入口は高さも幅も二メートルぐらいでそれなりに大柄な人間でも通れそうな広さだったのだが、少し進むと道幅が狭くなり、だんだん斜面を降りる形になったかと思えば、途中で急にほぼつるつるの通路に全員が足を滑らせてしまい、スライダーのように流れてきて現在に至っている。

洞窟の中は不思議な雰囲気だった。
ずっと細い道が続いており、入口からだいぶ離れてきたはずなのに、空気がまるで外と変わりない。
洞窟特有のカビ臭さも全くなかった。

「そういえば、ルーンが言ってた門番みたいなのって、どこにいるんだ?」

「あたしが最初に来たときは、さっきの滑る斜面を下りてからもうちょっと進んだ先だったんだけど……」そう言ってルーンは立ち止まった。

「どうしたんですか?」合わせてアクアも立ち止まる。

「いや、あたしが最初に来た時は、こんな平淡な通路じゃなかったと思うんだけど……もっとこう、分かれ道とかあったりして……最初とは道が違うの。やっぱりこの洞窟、何かがおかしいわ」
「でも、ずっと一本道だったぞ。おかしいのはお前の頭だろ。宝に目が眩んで、頭でも打ったんじゃないのか?」

レオンが自分の頭を人差し指でとんとん、と小突いきながら悪態をついた。

「なんですって!?」ルーンはまるで蛇のように、レオンを睨みつけた。「おお、怖い怖い」と、レオンは大袈裟なリアクションをとりながらクリスの後ろに隠れる。

「とにかく、いまさら引き返すわけにもいかないし、ひたすら前に進んでみましょう」

ふざける二人は放っておくことにして、アクアはさっさと歩いていってしまった。

「……珍しく積極的だな」

人が変わったように前向きなアクアを見て、クリスがぽつんとつぶやいた。

それからの道も、やはりルーンの言うような分かれ道はなかった。
ただひたすら一本道で、幅も狭いままだった。

しばらくして、気のせいか辺りが明るくなってきた。
一応アクアたちはカンテラを持っていたのだが、そのせいだけだはない。
おかしなことだが、どこからか陽の光が差し込んでいるような明るさだった。

「これはもしかして、外に出られるのかしら!?行くわよ!」
「あ、ちょっとルーン!」
「俺たちも走るぞ!」

急に走り出したルーンを、三人は追いかけた。
光はますます明るさを増し、ついに全員の視界を白く染めた。

「……何なの……ここ……」

そこはいつかの時代に造られた都市の廃墟のようだった。
近くに海があるのか、微かに波の音がさざめいている。

「やっと外に出られたと思ったら、これかよ……」レオンが肩を落とす。

「かなり昔に滅んだ都市みたいだな。何百年か……いや、もしかしたらもっとはるか昔か……」クリスが老朽化して崩れた建造物の灰を手に取りながら言った。

各々がその光景に圧倒される。
かろうじて形を保っている建物も、今にも崩れそうに佇み、ただ侘しさが漂っているだけなのにもかかわらず、どこか神聖な空気があり、思わず息を呑んでしまう。

『アクアよ……よくぞこの地へ戻ってきた……』

突然どこからか声が響いてきた。
どこか近くからのようだが、肉声というよりは、まるで空が語りかけているような声だった。

「誰だ!?」クリスが腰の剣に手をかけ、周囲を警戒した。

『私たちはいつかお前が帰ってくるのを待っていた。そして永い年月を経て、ようやく今、故郷へ帰ってきたのだ』

「何!?帰ってきたって何なの!?ていうか、アクアって誰よ!」ルーンは何が起こっているのか、“声”が何を言っているのか分からず混乱していた。

「……アクアというのは、私の本当の名です」
「マリン、どういうことだ?君の名前はマリンじゃないのかい?」

クリスが訝しそうにアクアを見る。
ルーンもまた、クリスと同じ表情でアクアを見た。
ついにアクアは、本当のことを言わなければいけない時がきてしまったのだ。

「今まで嘘をついて本当にごめんなさい。どうしても、名前を明かせない理由があって……」

そう言いかけた時、“声”が『……ゴホン!』と、わざと遮るように咳払いをした。
勝手に話を進めたことが気に入らなかったのだろうか。
表情は見えないが、それに似た空気を四人に漂わせていた。

『えー、そうだ、そのとおりだ。マリンなどという下賎な名前ではない。今そこにいるのは、ノースアイランドを統治する、誇り高きウィンタリィル国のアクア・ヴィクトリウス・セント・ウィンタリィル王女だ』
「王女って、どういうこと!?」
「旅人じゃなかったのか!?」
「俺はてっきり、ただの箱入り娘かと……」

三人は驚きを隠せなかった。
アクアはその様子に萎縮してしまった。

「……あ、あの、私が故郷に帰ってきたというのはどういうことなのですか?ノースアイランド以外にも、国土があるというのですか?」

アクアは一歩前に踏み出し、どこにいるのか分からない“声”に向かって問いかけた。

『なんと……お前は何も知らずにここへ来たというのか。あの突然の襲撃のことも、お前が今、懐で守っている宝玉のことも』

「この宝玉のことですか?」アクアが国に伝わってきたという宝玉を取り出し、空に向かって差し出した。
「あ、私も持ってるわよ」同じくルーンも、ポーチから無造作に宝玉を取り出す。

それを見た……と表現するのが正しいのかどうかは定かではないが、“声”は悲痛に嘆き始めた。

『これはまたなんということだ!こんな薄汚い愚民などの手に、神聖な宝玉が渡ってしまっているとは!』
「愚民ですって!?」

ルーンは食ってかかったものの、姿の見えない“声”を締め上げることができない悔しさに苛立ち、地団駄を踏みながら歯軋りをした。

「覚えてらっしゃい!もしこの先会うことがあったら、顔の原型がなくなるまでぶん殴ってやるんだから!」
『ふん、勝手に喚くがよい。どうせお前たちが私の実体に会うことは叶わぬのだから』
「それはどういうことなんですか?」
『すでに私の肉体はとうに滅び、土に還っているということだ。今は残留思念だけがこの世に留まっている』

残留思念ということは、この場所に何か思いを強く込めて残したいことがあったということ。
それほどまでに、アクアに伝えなけらばならないことがあったのだろうか。

「でも、どうして国はノースアイランドへ移ったのですか?」

「隣国との戦争……」クリスが口を開いた。「大陸ではよくあることだよ。僕もちらっとしか聞いたことがないんだけど、大昔のアストルリア大陸には、今よりも国がたくさんあったらしい。大きな国から小さな国までね。でも弱小の国は、すぐに大きな国に支配されてしまう。今あるハイルランバー国は、そうした支配によってできあがった国だそうだ。もしかしたらウィンタリィル国も、戦争によって侵略されていたのかもしれない」

『そちらの青年は物知りなようだな。正解は八割といったところだが』

“声”のその口調は、どこか意味深だった。

『この国はかつて、大陸の全土を支配する大国だった。魔法を得意とし、より強大な魔力の研究も行っていた。しかし……』

それも長くは続かなかった。
国は栄え、いつか衰えていくものだが、彼らはこの国が衰退するはすがないと過信していた。
どこまでも進化を遂げ、やがて全世界を支配するのだと思い込んでいたのだ。
しかし、少しずつ忍び寄る闇に気がつかなかった。
隣国が密かに連合を組み、それが大陸にある全ての国に広がっていき、ようやく気付いた時にはすでに遅し。
一気に攻め込まれ、防ぎ切ることができずに大陸から追い出されてしまった。

『我々は自分たちのおごり高ぶった力が事態を引き起こしたのだと確信した。今一度見つめ直し、ノースアイランドでやり直すことにした。まず私たちは、大陸の故郷を強力なバリアで隠し、洞窟を仲介として迷いの森と繋げたのだ』

どうやらルーンが最初に訪れた時に分かれ道がいくつかあったというのは、古代ウィンタリィルの魔法の施しによるものだったようだ。
来たる時まで招かれざる者が侵入してくることのないよう、彼らは結界を張って守り続けていた。

『そして同じ過ちを繰り返さぬよう、危険ないくつかの魔法をふたつの宝玉に封印した。ひとつは悪を滅ぼす力の込められた真(まこと)の珠(じゅ)、そしてもうひとつには、世界に混沌をもたらす力の込められた破(は)の珠(じゅ)――』
「それでは、私の国を襲撃してきた敵は、この宝玉の持つ力のことを知っている者……つまり、王族の者だということなのですね……」

アクアは宝玉を胸に抱え込み、辛辣な表情を浮かべた。
アクアの父、ウィンタリィル国王は、死ぬ間際に宝玉が悪しき者の手に渡らないようアクアに託した。
それが王族内の者だということは、王は知っていたのだろうか。
死人に口なし、今となってはもう聞くこともできない。
アクアはただ、ひたすら父の言葉の言いつけどおりに宝玉を守るしかない。

一方ルーンは、ただの水晶玉くらいにしか思っておらず、扱い方も雑で、誰彼かまわず見せびらかしてしまうほど。
よく今まで狙われなかったと驚くくらいである。
だが、宝玉を譲り受けてからというもの、ルーンにとって都合の悪い面倒事ばかり起こっている。
彼女にしてみれば、宝玉は災厄のようなものにすぎなかった。

「何が何だか分からないけど、要するにこの宝玉が全ての災いの元ってことね……だったら、こうするまでよ!」

ルーンは宝玉を片手に持ち掲げると、まるでボールを投げるかのように構えた。

「ル、ルーン!あなた何を……!」
『待て!待つのだ!』

アクアと“声”が止めるのも聞かずに、ルーンはおもむろに近くにあった建物の壁に宝玉を投げつけた。
速度に任せて飛んでいった宝玉は、派手な音を立てながら、ものの見事に粉々になってしまった。

「これで世界の平和は守られたわ。こんなものがあるからいけなかったのよ。狙われる原因が宝玉だったんなら壊してしまえばいい。そうすれば、国が滅ぶこともなったんだわ。ほら、あんたも貸しなさいよ。あたしが粉々にしてあげるから」
「え、でも……」

宝玉を出せと手を差し出してきたルーンに、アクアはおろおろと戸惑ってしまった。
たしかに宝玉さえなければ、もう自分が狙われる理由もなくなるかもしれない。
しかし、そんな簡単なことではないような気もしてしまう。

『馬鹿者!アクアよ、それを壊してはならん!もしその宝玉まで破壊してしまえば、この世界には更なる災厄が訪れることになってしまうのだ!』“声”が慌てて阻止した。

「災厄ですか?」
『そうだ。今そこの愚民が粉々にしてしまった宝玉は、残留思念を封じ込めていた記憶の珠(じゅ)だ。私たちは予言していた。再び、この世には災いが降りかかるだろう、と。それを懸念して、三つの宝玉を造り出したのだ。いつか王族の子孫が宝玉を手に、世界の災いを振り払うことを祈って……残留思念はその……補助の役を担って……いた……』

急に“声”の言葉にノイズが走り始めた。

「どうかしたのですか?」
『……そろそろ私の役目は終わ……うだ……もうこの世に留まっ……なくなった……他にも残留思念……にいたのだが、皆消えていなくなる……クアよ、その宝玉は守り通すのだ……傷ひとつつけて……ぞ……』

やがて“声”は完全に消滅してしまったようだ。
先程まで感じていた気配がなくなり、耳をすませても波の揺れる音しか聞こえてこなかった。






to be continued...



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Jis

Author:Jis
趣味は音楽、映画鑑賞や読書、漫画など。
気ままに小説を書いたりしてます。
時間があればどうぶつの森、モンハンもプレイ中。
忙しくてなかなか趣味に没頭できないんですが、
のんびり更新していきたいと思います。

Latest:2016.02.19 小説『aQuA -アクア-』のChapter 8 をアップしました!

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